Tanren塾塾長体芯力®︎マスタートレーナー鈴木亮司です。
「足が速いのは体力があるから」
「筋力が強いから走るのが速い」
常識的に考えるとこのようになりますね。
「速く走るようになるために筋力トレーニングを行なっている」
このようにも考えて何も不思議ではないと思います。
このことが現実に本当に結果として結びついているのか否か?それらを突き詰めていた過去が陸上競技界にありました。
東大名誉教授小林寛道先生の著書「ランニングパフォーマンスを高めるスポーツ動作の創造」より以下抜粋
「短距離走の選手では走ること以上に筋力トレーニングを行わなければならない」こうした考え方は1964年の東京オリンピック以来、短距離選手の中に浸透してきた。これまでにもあまり走らず、ウェイトトレーニングを主体としたトレーニングを積み重ねることで、短距離走の記録を大幅に向上させた例が報告されている。
しかし、短距離走の選手にとって、どのような内容の筋力トレーニングを行うべきかについてはいろいろな意見があり、また選手の嗜好によってその方法も多岐にわたっているのが現状である。短距離走に必要な筋力トレーニングについて考えてみよう。
中略
1980年から日本陸連医科学委員となった著者は、当時の医科学委員長であった松井秀治教授(名古屋大学)からジュニア選手の体力測定を担当するように命じられた。
そこで従来行われていた一般的な体力測定項目を大幅に改革して、アネロビックパワーの測定な、サイベックスマシンを用いた脚伸展筋力や脚屈曲筋力の測定、フォースプラットフォームを用いた垂直跳パワーの測定などを導入した。そうした、測定を実施するうちに、不思議なことに気付いた。
1984年当時100m走で10秒34の日本記録を出した高校生の不破弘樹選手の体力測定を他のジュニア優秀選手とともに行ったところ、不破選手にはあまり優れた体力測定結果を得られなかったのである。それとは対照的に非常に優れた体力測定結果を示した選手でも、走る成績がそれらの体力にみあうほど優れているとは言い難い選手もいた。
そこで「陸上競技の競技力と直結するような体力の要素とは何か」を真剣に考える必要性を感じ、特に直接的に走能力に影響する筋力に関する研究をすすめることにした。
我々がどのように考えているかはさて置き、現実の世界ではこのようなことが起きています。
1998年に100m日本記録10秒00を出した伊藤浩司選手も筋力は女子選手並みだったと言います。
筋力が強いことに越したことはありませんが、それらが本当に競技である体の動かす能力と直結しているのか?ということを真剣に考えるべきだと思います。
「競技力向上には筋力向上は必須」
「基礎体力は必要不可欠。これを高めなければ勝てない」
と盲目的に体力トレーニングをさせ、オリンピックの金メダル候補が急に成績が下がったという例も1つや2つではありません。
最先端の科学的トレーニングを積み重ねているにも関わらず、
「今までできていたことが出来なくなった」
「なぜ出来ていたのか当時の自分に聞きたい」
このような言葉を残した国民的アスリートがいます。
この選手は体力トレーニングによって体力測定数値は向上していました。
「今まで一回もできなかった腹筋ができるようになりました」
と嬉しそうに語っていました。
しかし競技においては今まで出来ていたことが出来なくなったのです。
この矛盾に気づける指導者はあまり多くはないと思います。
筋力が向上して体力測定数値が向上したわけですから、さらに競技パフォーマンスが向上していると考えるのが普通です。
しかし結果は全く逆の結果が出ているのです。
数値というものは大変便利ではありますが、数値によって見えなくなっているものもある、ということは忘れてはならない現実だと思います。